フィリピン針生旅日記

フィリピン一人旅 

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自作恋愛小説 HIMITSU 禁断の愛 23

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自分の惚れた女が、たまたま娼婦であったことに何の変わりもないことだが、目の前で男たちに買われていく光景

は、どんな仕打ちや拷問にも変えがたい、耐えがたい苦痛である。

あえて吉雄は、彼女が肉体だけのサービス業として考えるように努めてはいたが、相手は人間、彼女も少なからず

、心を許す男が存在してきても不思議ではないと思い始めてきた。

置屋のある建物の中央には、中堀の池がある。

公徳心のないものが、ごみを池に投げ捨てたのか、菓子袋が池に浮いている。

吉雄は、この日もアラーンの目の前には現れず、ただ池と女たちを時折見つめながら、ぼんやりと立ち尽くして

いた。

それでも視線は、常にアラーンのいる店に向いている。

彼女が部屋から出てきた。化粧を直しに鏡の前に立って、ファンデショーンを何回も塗っているのが見えた。

それでも吉雄は、彼女の前に足を向けず、動かず立っていた。「あの子は、何を考えて元学校の先生には50元で遊

ばせているんだ。俺は、60元。たった10元の差だけど、俺には

納得がいかない。変な言い方だけど俺のほうが彼女と長い関係だ。・・・・・・」

この夜も置屋街の見学だけにとどめておいた。

すでに女たちもほとんど客に買われて少ない。外に出るとポン引きの女たちが、置屋の価格と違う値段で寄り添っ

てきた。

言葉少なげに吉雄は、ただ不要(プーヨウ)とだけ言い残し去っていった。

数日後、アラーンは前回吉雄とオールナイトを終えてから、彼と再会していないことに気ずき初めていた。

午後の昼下がり、たいていの女たちは、食後の昼寝をしていることが多く、アラーンもその中の一人だった。

以前は、吉雄が店に訪ねてきてお菓子、果物などを差し入れることが多い。最近、めっきり姿を見せなくなった

吉雄の

存在に気ずき始めたアラーンだった。数日後、置屋のある建物の中央から階下が見渡せる手すりに寄りかかると、

アラーンは吉雄を見かけた。

吉雄は、置屋街の通路を歩いていると数人の娼婦たちに腕を引かれていた。

必死にアラーンは、吉雄に声をかけた。

吉雄もアラーンの声に気ずいていたが、目だけあわせると腕を引く娼婦たちをを振り切りながら、一階の出口へと

消えていった。

「・・・・・吉雄さん、どうして私の声に気ずいてくれたのに会いに来てくれないのかしら。どうして?。いつも


なら、手を振ってくれて、すぐ私に会いに来てくれるはずなのに・・・・・・・・・・・・」

アラーンはこのときほど寂しさを覚えたことはなかった。

自分は、娼婦として仕事についている。男たちに性のサービスを提供する非合法な風俗産業従事者だ。

しかし、女である以上、それに人間同士肌の接触を重ねるうちに、情がわいてくるのは至極当然だ。

「私、何かいけないことしたかしら。どうして?。言葉がお互い通じないから、あの人も私に何も言ってこない。

どうしてなの。」

理由がわからない吉雄の冷たい態度に、彼女は苦しんだ。

ただのお客なら感情もなにもないことだが、吉雄とは人間同士の付き合いの感情があった。

それだけに余計気になっていた。

一方の吉雄もアラーンに最近 冷たい態度をとったことに、少し戸惑いを感じていた。
 
アラーンは現役の娼婦。彼女の店に顔を出せば、吉雄に必ず遊ばないかと声をかける。

店の前で彼女と話しだけをするわけにもいかない。なぜなら彼女たちは仕事中だからだ。

お金を落としていかない男に興味を示すわけもない。

吉雄にも意地があった。彼女と接すれば、必ず財布から金が消えていく。

お金を落とさないで彼女たちと交流をするわけにもいかない。

「あの子とは少し距離を置こう。仕事として俺と接しているんだ。恋愛感情なんかあるわけもない。客ひとりひと


りに情を抱いていたら、心も体がいくつあっても足りるわけがないさ。」

吉雄は、数日後荷物をまとめて、中国の町をあとにした。

入管を無事 出国手続きを済ませ、橋を渡るとベトナム側の入管にたどりついた。

「あの子とは、しばらくいや、もうこれっきりかもしれない。所詮、あの子と俺は、言葉もよく通じないし、年齢

も離れているし、

彼女は、現役の娼婦だ。仕事で男たちと接している。俺なんかに特別の感情を抱くはずもない。・・・・」

吉雄が背負うリックサックは、このときほど重く感じたことはなかった。

「俺はどうかしていた。自分を見つめてみれば、ただの初老親父が、辺境地で言葉も話せない、通じない若い娼婦

に惚れただけだ。金で体は買えても彼女の心は、いくらお金を積んでも買えることはできない。・・・」

中国とベトナムは、時差が一時間ある。

ラオカイの駅までとぼとぼと歩いていると、自転車に乗って編み笠を被ったおばさんが、吉雄が歩いていることに

気ずいて声をかけてきた。

元気な声を聞いて、何を話しているのかわからなかったが、おばさんに勇気ずけられていることだけは感じてい

た。

ラオカイの駅までの一本道をひたすら歩いていくと、ようやく駅らしいフランス風の駅舎が見えてきた。

ハノイの駅も子小規模なのに比べ、ラオカイの駅はさらに小さく感じた。

あいにく、ソフト寝台の切符が取れたので今夜は、寝台列車と優雅な汽車な旅を楽しむこにした。

吉雄の頭の中は、アラーンの想いばかりに悩まされていた。

車窓に目を向けると、すでに北ベトナムの夜をいっそう暗く演出していた。

汽車がようやく、重い車輪を動き始めた。車窓から見る夜の町は、辺境地らしくどこの家からも乏しい、夜灯火だ


けがポツリと吉雄の目にも入ってきた。

次第にハノイを目指す汽車の振動は、吉雄の思いとは裏腹に、アラーンへの未練だけが残り、悲しさからか、

まぶたにはかすかな涙が流れていく。

「しばらく 彼女から離れよう。そのほうがお互いのためだ。離れてみてようやく相手に対して、再認識するに違

いない。

もし、彼女も俺のことを思う気持ちがあれば、そのときこそ本当に愛があるに違いない。・・・・・

離れてみて相手の愛の深さがわかるのだ。・・・・」

感慨深げに、車窓からは何も目に入らないくせに、吉雄は重大な行動に走ったことに気ずき初めていた。



汽車は、ゆっくりとハノイ駅のプラットホームに着いた。

まだ夜が明けていない、薄暗い汽車の中は、たくさんの荷物をかかえた乗客が外で待っている

タクシードライバたちをよそに、急ぎ足で駅の改札へと駆け込んでいく。

吉雄は、最後にとり残されると棚から大きめのリックサックを背中に背負い、駅の待合室を目指した。

他の乗客とちがい、誰かが彼を待っているわけではない。自由の身は気軽だが、こういう情景に出くわすと

さみしさが一段と身にしみる。

50歳に手が届こうとしている彼だが、今もって風来坊の身分だ。

待合室には、大勢の乗客たちが夜が明けるのを今か今かと待ちながら時間を潰している。

宿にチェックインするにはまだ早い。

荷物はリックサックひとつと古い旧式のパソコン。それとミネラルウオーター。

まだ夜が明けていないうちから、街をゆっくりと歩き始めた。

目指すは、ホアンキエム湖。周辺には、たくさんの安宿があり、買い物にも便利な町並みだった。

吉雄は、中国からメールでやり取りした日本人の友人とハノイで待ち合わせすことにした。

彼は、定年退職後、アジアに限らず世界中をひとりで旅している友人だった。

今回、その日本人は、カンボジアから陸路でホーチミンを経由して、ハノイまで汽車でくる予定だった。

そもそも彼は、のちにハノイから中国の南寧をめざし、福建省のアモイから台湾、台湾から日本へと進路を進めて

行く予定だった。

前回、中国で知り合い、その後もメールで交流をし、今回ハノイで会う段取りになっていた。

吉雄は、久々に友人と話す機会に、夢と期待を膨らませていた。

ホアンキエム湖の近くまで歩いてくると、湖面から吹き上げてくる朝風が心地よい。湖の周りにある周遊道には、

朝早くからお年寄りが、軽い体操をしている。

まだ、夜が明けたばかりというのに、天秤棒にたくさんの野菜や果物などを積め、駆け足で過ぎ去っていくおばさ


んたちの群れを見た。

吉雄は、早朝の時間を見計らい、宿にチェックインをすることが、旅人の務めであると認識した。

Hang Bac(ハンバック)通りまで歩いてくると、狭い道にはたくさんのバイクと歩行者が、今にもぶつかりそう


なくらいひしめきあっていた。

1件のゲストハウスの前に立つと、店主らしいベトナム人男性が、吉雄の顔を見て客引きをする。

「10ドルだ。今からでもチェックインできるよ。・・・」

彼は、片手に持っている箒を置き去りにすると、吉雄の話など聞こうともせず、部屋の前まで来て案内を

始めた。

1階の奥にある10ドルの部屋に決めた。

明日は、連れの日本人がホーチミンからハノイに汽車でやってくる。

ツインベッドで10ドルなら一人あたり一日5ドルの計算になる。

明日も友人が泊まりにくるから、明日もここに泊まるかもしれない、そう店主に告げたあと、ベッドの上でいびき

をかくように眠りについた。

夜行寝台は、個室になっていたし、寝台だったので脚を伸ばして寝れたわりには、どこか寝不足気味だった。

いつのまにか目が覚めた。天井を見上げるとフランス建築の名残りなのか、モダンな幾何学模様が施されている。

「あいつ、今ごろどうしているのだろうか?・・・」

ふと想いかえすとアラーンのことばかりに、過去の思い出がよみがえってくる。

翌朝、ホーチミンから汽車でハノイに来る友人を向かえに行くため、宿に寝泊りしている若い女の子に、明日は、

早起きするから宿の門をすまないけど開けておくれ、と頼み込んでおく。

友人からメールでハノイの駅に到着するのは、早朝4時半とメールに記してあった。

吉雄は、肝心な汽車番号を尋ねることを忘れていた。

ハノイ駅に到着する汽車は、ほとんど朝方が多かった。

駅前には、たくさんのタクシーが待機している。

時間になっても友人の姿が見えないことに、不安を覚えた吉雄は、もうしばらく友人を待ってみることにした。

吉雄も彼も携帯電話を持っていない。連絡方法は、いつもネットとメールだけだった。

5時まで友人を待っていると、2年ぶりに再会した友人が、大きなスーツケースを転がしなら夜明けの薄明かりの

中やってきた。

友人の話だと5時にハノイ駅到着を4時半と間違えてメールしたことを詫びていた。そのことが第一声の話題だっ

た。

「いや、久しぶり!汽車の到着時間、間違えてメールしちゃったよ。よく待っていてくれたね。・・」

吉雄とは20歳も歳が離れた老年紳士、彼は松本清と言った。

「お久しぶりです。遠いところご苦労様です。もちろん日付けが変わったとしても僕待っていましたよ。」

昔から調子がいいことでも有名な吉雄だ。

しかし、彼のそんな謙虚で一途、それに男気のある人望が、年上の男子からも好感を得ていた。

二人は、まだ夜が明けていないハノイの町を、松本が引っ張るスーツケースを吉雄が引きずり、宿までの長い道の

りを歩いて向かうことにした。

「荷物 ずいぶん少ないですね。僕なんか中国の宿に預けているんですよ。さすがだ、松本さんは。・・・」

「そうかい?これでも荷物が多くて困っているんだな。・・・」

「ホーチミンからの汽車の旅いかがでした。?長旅だから疲れたでしょ。・・」

「若い日本人と同室になったんだが、話かけても反応がないんだ。話し相手がいなくて二日間退屈だった

よ。・・・」

松本は、吉雄の性格と違い、社交的で日本人を見かけると誰にでも声をかける性格だ。

いっぽう、吉雄は日本人から声をかけられて、その後仲良くなることはあっても自分のほうから声をかけることは

ない。

対象的な性格の二人だが、旅を共にしてもうまがとてもあった。

数日間、松本が日数調整のためハノイに、吉雄もベトナム 中国ボーダー ピンシャンに行くまで

のんびり行動を共にする。

宿の主人とスタッフの女の子は、二人にハロン湾ツアーを勧めてきたが、旅のベテラン二人は、すでに北ベトナム


界隈は旅行経験済みだった。

部屋には、バルコニーがあり扉を開けると 外から聞こえてくる喧騒が一段とやかましく聞こえてくる。

バイクの絶え間ないクラクション、密集している店の看板が、この辺りの人口密度を物語っている。

「私ですね、これから電話局へ出かけてこようと思います。・・」

「どこに電話かけるの? スカイープから電話かけられるよ。よかったら俺の使っていいよ。」

松本は、普段からパソコン同士だと通話料金無料のスカイープを利用している。ただし、相手がパソコン所持者で

ない場合に限り、通話料は有料となっている。

「でもいいですよ、ほら例の、置屋のねーちゃんに電話かけようと思っています。彼女 4月の初めに休暇とって

田舎に帰る

そうですから。一緒に行けたらいいと思いましてね。どうかわかりませんけど。彼女にはハノイに行くと告げずに


来ちゃいましたから、少し心苦しいのです。」

「そうか、女の子の実家にね。でも本当に外人を連れて行くだろうか?言葉もうまく通じないのに。・・・」

顔のしわが松本の人性経験をさらに濃厚にする。

「フィリピン人は喜んで家に連れていってくれましたけどね。ベトナム人はどうだろうか?まぁ聞いてみますよ。・・・」

「吉雄君は、まだ若いね。気持ちが若いってことだよ。」

昼食は、おのおの各自食べようと言い残し、吉雄は宿をあとにした。






宿から外に出ると ハノイのこの時期は、まだ肌寒い。

バイクにまたがっている人々も皆、薄手のジャンパーを羽織っていた。

ホアンキエム湖に沿って歩いていくと、フランス建築らしい大きな建物がいくつか見えた。

濃厚なクリーム色の塗られた壁からは、どこから見渡してもヨーロッパの雰囲気でありながら、アジアの意味

をも持っている。

吉雄は、郵便局の中にある電話局に向かうと、肝心のベトナム語会話本を持っていないことに気がついた。

「しまった。電話だと俺彼女と会話できん。会えばなんとか、中国語のちゃんぽんと身振り手振りで意思の

疎通がはかれるが、どうしよう。・・・・」

ちょうどそのとき、一人の若いベトナム女性が電話を日本へかけていた。

女性の声から、流暢な日本語の旋律が吉雄の耳にいやでも聞こえてくる。

「彼女、日本語うますぎるな。会話の様子から、相手は恋人ではなさそうだ。どうもお客さんのようだ。

そうか、彼女は通訳さんかもしれない。彼女が話し終えるまで少し待って、あとで電話通訳を頼んでみよう。

5ドルもあげれば、通訳を引き受けてくれるかもしれない。・・・」

しばらく待つとその女性は電話を終えた。

「いいですよ。今ね、日本は大変な地震でね。私お世話になった日本人のお客さんが心配でね。今電話

していたところなんですよ。無事でよかったわ。・・・」

若い女性は、心配していた日本人が無事であることを確認できたのか、終始にこやかだった。

満面の笑みからこぼれるその奥の瞳は、どこかアラーンに似ていなくもない。

年頃も同じだろうか。女性のほうが知的で育ちもよさそうに思える。

しかし、アラーンも彼女に負けないくらいの魅力を持っていると思える。「あのう、ちょっといいですか?

もしかして、あなた通訳の方ですか?日本語ずいぶん上手ですけど?」

吉雄は、周りのことなど一切気にせず、女性に申し訳なさそうに尋ねる。

「え、そうですよ。普段は旅行会社でガイドをしています。何か?御用ですか?・・・」

姿、顔立ち 笑顔、どれをとってもアラーンに似ている。

「あの、私ね、ベトナム語が話せないのです。それで私の友人との会話、あなた通訳してくれませんか。

もちろん、通訳料金と電話代はお支払いします。無理でしょうか?」

機転がよく女性なのか、すぐに答えが返ってきた。

「いいですよ。こちらの電話番号ですね。えっーとそれで何の話をしたらいいのかしら。?・・・」

「彼女にですね、来月初めごろ、田舎に帰るとき一緒に付いていってもいいか?聞いてください。それと

ですね、僕は今ハノイにいると。必ず今度会いに行くから、そう話をしてもらえますか?・・・」

吉雄は、これでも短じかめに伝えたつもりだった。

「わかりました。・・・・」

女性の携帯電話を拝借しながら、いきなり会ったばかりの人間に頼みごとをするのも気が引けたが

女性は、普段から日本人と接しているのか、嫌な顔も見せずすんなりと引き受けてくれた。

「ハロー!アラーンさんですか?私日本人の吉雄さんの通訳を買ってでたものです。吉雄さんが、電話だと

話できないから私に頼んできました。今度あなたの休暇に、彼あなたと一緒に田舎にいきたいと言っていますよ。

どうですか?・・・」。

電話の向こう口からアラーンの声がかすかに聞こえてきた。

「どうしてあの人、電話にでないのですか?私とても恥ずかしいわ。 12日から2週間休みをとりました。

もし、私の田舎に行きたいのなら、中国から一緒にいきましょう、と伝えてください。・・・」

通訳の女性は、アラーンからの伝言を吉雄に伝えた。

吉雄は、その話を聞いてわざわざ中国まで戻らなければならないことに疑問を抱いた。

中国まで戻ってアラーンと一緒に国鏡を越えるのか?置屋の女たちや老板の目を果たしてごまかせるのか?

何も自分が中国まで戻らなくても、ベトナムのどこかで待ち合わせてもいいのではないか?

そのときそう思った吉雄だったが、アラーンの言葉を信じる以外術はなかった。

このとき、アラーンは吉雄と田舎に行くことに、何もためらいは感じていなかった。

田舎には、たくさんの兄弟姉妹、それと姪甥 従兄弟親戚がいる。

吉雄を家族に紹介しようと短絡的に考えていた。

一方、吉雄がアラーンに冷たく態度をとっていたにもかかわらず、アラーンから田舎に一緒に帰省できるという

承諾を得たことにより、アラーンが自分にまだ未練と好意を抱いていることへの確信を得た。

「あいつ、俺のことを家族に紹介してくれるんだな。・・・」

宿に戻ると、松本はベッドに横たわり、パソコンを操作していた。

「お帰り。どうだった?」

松本も電話をかけに行った吉雄のことが気にかかる。

「そばにいた日本語ガイドさんに電話通訳頼みましたよ。とりあえず、田舎に一緒に行けそうですわ。・・」

少し、浮ついた口元から笑みがこぼれる返事だった。

「そう、でもあまり深入りは避けたほうが懸命だよ。・・・ベトナム人気質をよく理解していないと・・・それに

本当に彼女の実家へ連れて行ってくれるか、どうかわからんよ。・・・あくまで話半分に聞いておいたほうがう

君のためだ。女心と秋の空と言うじゃないか?・・・」

「えっ!? そうですかね。それもそうですね。お互い会話もできない二人が家族の手前に紹介されても
相当に不自然に見えますからね。・・・」

「よくわかっているじゃないか。そのとおりだよ。女なんか所詮、現実主義の金主義、まして売春している女なん

か所詮、男は女の小道具としか考えていないよ。頭の中まで君たちだって解明できんだろう。」

松本は、背中を吉雄に向け、話すことをやめて再びパソコンを操作し始めた。

「飯食べに行く?」

「そうですね。近所にうまい牛肉フォーの店がありますよ。さっぱり味でうまかったな。・・・」

二人は、就寝前のそばを食べに出かけた。



第3者から見れば、吉雄の行動、考え方はよくわかるにちがいない。

当の本人は、アラーンへの想いが今も続いていた。

数週間前から、彼女と接触を避けていた吉雄だったが、やはり彼女への思いはつのるばかりだ。

電話をかけることによって、さらに親密度を図る予定だった。

一方のアラーンは、そんなこと考える余裕もないほど、連日客をこなしていた。

吉雄から通訳を交えての電話を終えると、大勢の客が店の周りに群がっていた。

アラーンが電話ばかりに気をとられていると、商機を逃してしまう。

電話を自分のほうから、早めに切ることもたびたびあった。

「あの人、どうして今頃私に電話かけてよこすのかしら。・・しかも私の休暇に田舎に一緒に行きたいなんて。

でも姉さんたちが、果たして許してくれるかしら。家はとても貧しくて他人に家の中まで見せられないわ。

本当に中国に戻ってくるかさえもわからないから、適当に空返事しておいたわ。・・・・」

ベトナム人娼婦の多くは、本国で売春行為をできるだけ避けたい気持ちがある。

なぜなら、公安警察の取り締まりが厳しいことと、もし違法行為によって罰っせられれば、

多額のアンダーテーブルを要求されるからだ。

国境を接している、カンボジア 中国でベトナム人売春婦の多くは働いている。

他国で売春行為をすることのほうが、自国で売春行為をすることより、リスクも少ないという理由からだった。

吉雄は、アラーンとの約束を交わしたあと、松本を伴い中国 南寧へ向けて汽車の手配を行った。吉雄は、

南寧までは行かず、ベトナムとの国境に接している、ピンシャンと言う町で数日間 松本と滞在をしたあと、

再度ベトナムに入国してから、アラーンが住む中国の町へ向かう予定だ。

「松本さん、ハノイのザーラム駅から南寧行きの国際列車がありますね。でも夜の9時半出発ですよ。

遅くありませんか。?バスだと昼間運行しているそうですね。」

二人の間に、夜間の移動にするか、それとも日中の移動にするか、お互いの考えに溝が深まりつつあった。

中国の南寧から福建省アモイまで汽車で向かった松本は、吉雄とピンシャンの町で別れた。

お互い今度会うときは、アジアの孤島フィリピンで再会できることを、松本の提案で別れた。

松本は、世界中を旅しながら ロングスティしていたが、フィリピンだけ、まだ訪れていなかった。

「フィリピンね。マニラとか治安悪いでしょ。そういうイメージしか僕にはないけど、吉雄君の話とフィリピンの



写真を見せてもらったら行きたくなって来たよ。」

エメラルドグリーンの海より、透明と言ったほうが正しいトロピカルアイランドのフィリピン。

世界中から多くのダイバーをとりこにしていることでも有名だ。

とっくに還暦から10年以上も月日が流れた松本の肉体は、始めての国を一人で訪れることはすでに無理

だった。

吉雄のような、世話好きで若い相棒がそばにいれば、自分の旅をエンジョイできる。

そう思った松本は、次回吉雄と再会するときは、フィリピンと彼に提案してきた。

ピンシャンのバスターミナルに、一足先に吉雄がハイフォン行きのバスに乗り込んでいた。

町は、桂林に似ていて断崖絶壁の山々が、町を取り囲むように形成されている。

「松本さん、お元気で。見送りありがとうございます。一足お先に!・・」

「あんたも、置屋の子には、ほどほどの付き合いにしておきな。彼女は商売だ。本気になることより、仕事という



認識のほうが強い。彼女の実家に行くことはいいが、取材として考えて行きなさい。深入りはしないほうがいいかもしれないよ。」


めがねの奥から覗く年輪を感じる眼光からは、相手の人生をほとんどを読み取るだけの力量があるようにさえ思えた。

「ありがとうございます。とにかく行動あるのみです。」

「君はまだ若いね。あれだけフィリピンでいろんな経験を積んできたというのに、まだ女の心が読み取れないのかね。」

松本が吉雄を疑視する姿が、車窓から怖いほど威厳に見えた。

「そのとおりかもしれない。松本さんの忠告とおりだ。でも俺は感性と愛で彼女と接している。仮にだまされたとしても

いいんだ。結果はどうでもいい。自分の気持ちに正直でさえあればいい。本気に人を好きになってどこが悪い。」

過ぎ去っていく松本の姿が、 窓から少しずつ小さな点になっていく。

吉雄は、そのあとハイフォンで数日間過ごしたあとハノイに戻り、ハノイから夜行汽車に乗り中国の辺境地に入国
した。

無事 中国に入国した後、のどが渇いた。彼は椅子に腰掛けジュースを飲んでいる人々群れの中に混じっていた。

女の子に椰子のジュースを注文した後、周りを見渡すと元教師の日本人が吉雄の背後にいたことを知った。

彼は、一冊の短庫本を片手に灰皿に吸殻をためながら、読書にふけっていた。

「お久しぶりですね。今中国に入国されたんですか?」

「ええ、そうです。ハノイから友達と一緒に南寧の手前にある町、ピンシャンまで行ってきました。」

元教師に対して以前とは違う警戒するかのような、さりげない返事だった。

「あっそうだ、あの子、吉雄さんに何か伝えたがっていましたよ。メールあなたに送ったんですがね。読んでくれましたか?」

吉雄は、しばらくメールを読んでいなかったことに気がついた。

「すみませんでしたね、。ぜんぜんメール開いていなかったですよ。・・・それで?」

手元にパソコンがない理由から、直接元教師にメールの内容を尋ねた。

「アラーンのことなんですよ。あの子がね、あなたがベトナムへ行ったあと僕の部屋に来て、何か僕に仕切りに

話をしているのですが、何を言っているのかさっぱりわからなかったんです。今月12日ごろから休みをとるという

ことだけわかりましたけどね。そのことをあなたに伝えたたかったのではないでしょうか?・・・」

元教師に似つかわしくない素振りで、吸い終わったあとのしけもくを何度も吸い続けている。

「そうですか。でもどうしてアラーンは俺に伝えたいことがあるのでしょうか?・・」

「そりゃ、そうですよ。あなたのことが気になるからですよ。それ以外に考えられませんね。どうでもいい客なん

か、頭の脳裏の片隅にもありませんからね。ハハハハ。」

驚くほどの大声を出して笑ったかと思ったら、急に静かに黙りこんでしまった。



続。
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  1. 2012/08/13(月) 06:00:56|
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プロフィール

針生 あつし

Author:針生 あつし
フィリピンの好きなところ。
言葉が通じる。海がきれい。!
人間がおおらかで、ソフトで優しい。
日本人のようにに細かいことにうるさくない。
南国気分を味わえる。
日本の生活に息抜きしたくなったら、フィリピンに行きましょう!



 
  

 
 
 

 


 
 



 
 
 































 


 



 
 









 
 


 




 
 
 

 










 


 


  

 






  




 




  


 



 














 

 





 


 
























 

 



















 





 



































 











 

 
 




 

 
 

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